総合大学の特徴を活かした、スポーツの技術力向上と健康・体力増進の研究を行っている研究所施設です。


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Newsletter Vol.3

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プレホスピタルケア講習会の開催について

もし、スポーツ活動中に選手が倒れたらどうしますか?

スポーツに「けが」はつきものではなく、予防できるものもかなり多いといわれています。最近は特に命にかかわるような重症なケースにおいての発症状況や生体に何が起こっているかがわかるようになったため、その対策が進められています。

スポーツ活動中の突然死に最も多い心臓血管系の問題や、小児の心臓しんとうに対し、最近では心肺蘇生の普及やAED の設置が進められ、一般市民が参加できる講習会が全国各地で行われています。また、国内では柔道における頭部外傷を由来とする死亡事故に対する警鐘や、世界ではオバマ前大統領が脳しんとうを問題視し、アメリカンフットボール(NFL)での訴訟問題、映画「Concussion」の制作・上映、ラグビーやサッカーなど頭部外傷が多いスポーツを中心に「スポーツにおける脳震盪に関する国際会議」で議論され標準化された評価(SCAT)や対応策が提示され脳しんとう後の重症化の予防の対策が進められてきました。

特に短期に繰り返す頭部外傷は重症化しやすいといわれ、脳しんとう後の復帰、特に当日の現場での対応が重要視されてきています。さらに、頭部外傷に匹敵する重症外傷である頸椎、頸髄損傷も初期の対応が非常に重要であり、2 次災害としての後遺障害の重症化予防をしなくてはなりません。これらは特にラグビーで先進的に行われていますが、大学スポーツ、学校スポーツでの安全性を高めるためにも多くの人が知る必要があります。

実際にスポーツ現場で重傷外傷が起きた場合、指導者やトレーナーが初期対応を行い、その後救急隊に引き継ぐことにります。救急隊に引き継ぐまでに、どのような処置をしてどのような行動をするか?倒れた人は答えてくれません。頭部外傷が起こっても短時間にゲーム復帰させるかどうか?本人やコーチの思惑や希望ではなく選手の身体障害を防ぐことを第一と考えようと、救急の現場で使われている言葉から引用し「病院前(プレホスピタル)処置(ケア)」講習会を開催する運びとなりました。何かが起こった時には冷静にといってもなかなかなれません。
何度も繰り返し行うこと準備が必要です。今後は定期的、継続的に開催していきます。(文責:宮崎誠司)

「運動能力判定のための標準化モデル作成」がスタート

体力データベースを一元化

2017 年4 月より本研究所のプロジェクト研究の一つとして「スポーツ選手における運動能力判定のための標準化モデル作成」がスタートします。学内の強化クラブを対象に共通の体力測定を行い、「いつでも」「誰でも」「同じ評価ができる」仕組みを作ること、さらに蓄積されたデータをもとに標準化モデルを作成することが目的です。

これにより、日々のトレーニングの進捗状況の把握ができることはもちろん、数年間に渡りデータ蓄積が進むと競技種目別もしくは、ポジション別に目標設定をすることも可能になります。また、何よりも競技横断的に同一の体力測定を行うことで、多くの競技種目の国内トップアスリートが揃う本学において非常に有益な情報が一元化されることになります。このように、運動能力判定のための標準化モデルを作成する試みは、国内において実施可能な環境はごく稀であり、東海大学の強みであると言えます。

運動能力判定のための測定項目

測定項目は下図の通りです。形態測定として身長、体重、体脂肪率、除脂肪体重。持久力測定として最大酸素摂取量の推定に用いられるローイングエルゴメーター2000m とワットバイクによる3分間エアロビックテスト。ジャンプ力測定として連続ジャンプ時の接地時間と滞空時間から算出するリバウンドジャンプ指数(RJ-Index)。最大パワー測定としてワットバイク6 秒テスト。筋力測定としてベンチプレス、スクワット、クリーンとしました。

本研究所の機能としては、1.測定機材の貸し出し、2.測定スタッフの派遣、3.データ管理および各クラブへのフィードバックを行います。これまでクラブごとに行っていた体力測定ですが、その負担を軽減し、学内の他の競技種目との比較が可能になります。申し込みは指定の利用申込書(研究所ホームページ:http://www.sms.u-tokai.ac.jp よりダウンロード可)を研究所事務室までご提出ください。

小学生(バスケットボール選手)の体力測定実施報

2016年12月27日と2017年3月21日に、神奈川県を本拠地とするプロバスケットボールチーム(川崎ブレイブサンダース)のスクール事業の一環として、スクール生に対する体格および体力測定を行いました。

当日は将来ジュニアユースチームに選出されることが期待される小学生4~6 年生の36 名が集まりました。さすがは成長期真っ只中の小学生。身長の伸びや運動能力の変化の個人差が非常に大きく、中には前回(12 月)の測定から3 ヶ月経過した今回(3 月)、身長が3cm 伸び、運動能力も大幅に向上する選手もいました。

今後も継続して経時的変化を追い、トップレベル選手の成長過程を調査していく予定です。



体力測定の様子

アメリカの大学におけるフィットネス環境の視察報告
小山 孟志 ( スポーツ医科学研究所講師)

なぜフィットネスか

政府発表の成長戦略の一つに「健康寿命の延伸」が掲げられ、健康づくり支援のための環境整備が進められています。「メタボ」や「ロコモ」といった用語が飛び交う現代社会において、フィットネスはますます必須のものになっていくでしょう。さらに、2020 年の東京オリンピック・パラリンピックを前に日本国内のスポーツへの関心が高まってきている今、これを機にフィットネスを始める人が増えることが予想されます。このような背景から、大学においては一般学生や教職員が運動をするための環境作りを積極的に進める必要があると考えられます。

現在、日本のフィットネスクラブの加入率は3% と言われ国民全体からするとごく僅かです。一方、イギリス、ドイツ、オーストラリアは7~8%、アメリカは15% を超え、日本とは健康観が異なると言われています。この要因を探るべく、2017 年1 月28 日から5 日間、アメリカの大学(テネシー大学、ケンタッキー大学、イーストテネシー州立大学)を視察し、施設マネージャーにインタビュー調査を行って参りましたのでご報告させていただきます。


壁には“Recreation”の文字


開放的なカーディオエリア

日本とアメリカの健康観の違い

まず、驚くのが一般学生専用の施設の規模の大きさでした。施設マネージャー曰く、施設利用費はもともと学費に含まれており、利用の有無に関わらず全学生が支払っているそうです。また、運動の必要性やマシンの使い方などの知識は高校で必修クラスがあるそうで、既にある程度知った上で大学に来るのだそうです。医療制度や保険の仕組みが日本と異なり、それらが健康的な生活を送ることを後押ししているということも大きな違いとして挙げられていました。

興味深かったのは、今回視察したどこの大学でも「フィットネスセンター」ではなく、「RecreationCenter」と呼んでいるのです。“Recreation” の概念を大切にしているそうで、この施設で運動をすることで再び創造的、生産的な活動(授業や仕事)をするための準備としての位置づけということでしょうか。欧米では「Exercise is Medicine」とよく言われるそうです。運動は身体にとって最良の薬なのです。本学においてもフィットネス参加率を増やし、生き生きと健康的な生活が送れる学生や教職員が増えるよう今回の視察で得たことを生かしていきたいと思います。


1日の利用者は 3,500人


管理者へのインタビュー風景

第1回フィジカルトレーニングセミナーを開催しました

2017年3月4日、スポーツ教育センター・スポーツ医科学研究所主催の第1 回フィジカルトレーニングセミナー「コリジョンスポーツにおけるフィジカル強化戦略」が本学15 号館にて開催されました。講師は本学スポーツサポートシステムで活動経験があり、現在はラグビーのトップリーグや大学チームでフィジカル強化に携わるトレーニング指導者4 氏(池田道生先生、猪俣弘史先生、佐名木宗貴先生、原将浩先生)でした。「私のコーチングフィロソフィー」というテーマでのシンポジウムと実技講習を行いました。当日は全国から79 名(学外56 名、学内23 名)の参加者が集まり、活発な情報交換がなされました。次回は次年度3 月に開催予定です。

[特集]スポーツ選手の 方向転換能力とばね能力
有賀 誠司(スポーツ医科学研究所教授)

スポーツ選手の方向転換能力

サッカーに代表される球技では、すばやく移動する能力とともに、急激に切り返す(方向転換する)能力も求められます。例えば、サッカーの1対1の攻防では、方向転換能力の優劣が「相手を抜くか?相手に抜かれるか?」を決定づける要因になっているかもしれません。このような観点から、スポーツ選手の方向転換能力の特性や関連する体力要素について研究を進めています。

バレーボール選手を対象とした日本学術振興会科学研究費の助成を受けた研究では、前方に走った後、方向転換してすばやく後方に移動する課題について、レギュラー選手は非レギュラー選手と比べて優れた能力を示すことがわかりました。また、方向転換能力には、筋肉と腱が連携して発揮される「ばねのような能力(ばね能力)」が関わっていることも明らかになりました(図1)。


図1.女子バレーボール選手の方向転換走タイムとばね能力の関係(方向転換能力には、ばね能力が関係していることがわかった)

スポーツ選手のばね能力

上述したばね能力については、さまざまな競技種目の選手を対象に測定を行っています。ばね能力は、床に置いたマットの上で連続的にジャンプを行うことで把握することができます。接地時間(足が床についている時間)が短く、高くジャンプできる選手は、ばね能力に優れている傾向があるためです。

男女のバレーボール選手を対象としたばね能力の測定結果によると、レギュラー選手は非レギュラー選手よりも優れたばね能力を発揮することが明らかになりました。また、ポジション別では、ばね能力はスパイカーよりもセッターの方が優れていることがわかりました。測定前には、高くジャンプしてスパイクやブロックを行うスパイカーの方が高いばね能力を持っているのではないかと考えていましたが、予想に反してトスを上げるたびに低く鋭いジャンプを行うセッターの方がばね能力に優れているという結果となりました。

近年、陸上長距離界では、アフリカ勢の活躍が目立ちます。これらの選手の多くは走行中につま先着地を採用していることが知られています。つま先着地によるランニング動作では、日本選手に多いかかと着地による動作と比べて、アキレス腱のばねの機構を利用した効率の良いランニング動作が行いやすいと考えられています。このような背景から、本学陸上競技部長距離ブロックの協力により、長距離選手のばね能力の測定も継続的に実施しており、ランニングタイムや走法などとの関連についての検討を進めています。

今後は、ばね能力に関するデータをさらに収集し、各競技の特性に合ったばね能力を高めるためのトレーニング法の開発に役立てていきたいと考えています。

陸上競技部長距離選手を対象としたばね能力(リバウンドジャンプ指数)の測定風景


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